《はじめに 対位法の理論の変遷を踏まえて》

 「古典対位法」と言う言葉は、書かれた理論書の時代により、その対象が異なることが多いが、ここではバッハ以前までに確立し、その後の古典派作曲家の規範になった対位法の理論と規定し、それ以前のパレストリーナ(1524-94)に代表される教会旋法による対位法と区別する。

 対位法はフックスJohann Joseph Fux (1660-1741)の「古典対位法」Gradus ad Parnassum(1725年初版、坂本良隆訳、音楽の友社、1950)にその本格的理論が述べられ、これがその後の様々な作曲家の作曲理論学習の手引きになってきた。その後、フックスの「対位法」は、多くの理論家によって、改定されたり、それに準拠した本が出版されてきた。今世紀になっても、シュテールRichard Stoehr著「対位法の手引き」(1911)、イエッペセンKnud Jeppesenの「対位法」(1935)、ケックランCharles Koechlin(1867-1951)の「対位法」、あるいは、シェーンベルクの「対位法入門」(1961レナード・スタイン編)、ギャロン、ピッチュ共著「対位法」、(1964)、近年でも、ブラッヒャーBolis Blacherや、デ・ラ・モッテDe la Motteの著書は邦訳され、それらに邦人の著書を加えれば、まさしく「百花総覧」の状態であり、理論は十分すぎるくらい検証されているように思える。しかし、「100人の作曲家に100の理論あり」といった状態で、それらが書かれた時期(時代)や地域による差異のみならず、それぞれの著者の音楽観などの違いも加わって、様々な考え方による「対位法」が著されてきた。

 そこで、101番目になることを覚悟で、私自身も、「対位法」をここに表すことにした。実際は、私一個人の中にさえ、理論上異なる考えも混在しているといってよく、この作業は、私自身の整理のためであり、私の行う授業のためであり、そしてそれを公開して、より多くの人々に利用していただくとともに批判もあえて受けたいといったことから始めたものである。

 ここで扱うのは、長調・短調による、いわゆる「調性対位法」つまり「バッハ様式」と呼ばれる「対位法」の理論に基くものである。とは言っても、J.S. バッハの音楽の分析をめざすものではなく、その根本にある理論による「対位法」である。すでにフックスからの流れを汲みつつ、かなりの部分イエッペセンに準拠した理論に基づく、いわゆる教会旋法による「対位法」はすでに表しているので、そちらを参考にしていただきたい。

 理論に基本的なものと、応用的なものがあるとしたら、導入や入門には前者を扱うべきであろう。また、応用的なものは作家の個性や特殊性、アイディアなど、創作を試みるものにとって、あまり模倣できない部分もあり、学習後の応用力を考えても、基本的、根本的な理論を学習することが初学者にとって得策と考える。

対位法は、16世紀ごろまでの教会旋法による「パレストリーナ様式」と呼ばれる方法と17世紀以後の長調、短調の調性による「バッハ様式」と呼ばれる方法とに学習を分けて行います。ここではその後者を扱います。

前のページ            次のページ

無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう